自由律・俳句&随句

 

平成17年3月23日自由律随句『草原』へ入会しました。

寝そびれた夜のビールのあてがない

鬼灯赤らんでお盆が近づく

炎天にひからびた鼻糞ほじる

玉子かけご飯に玉葱の味噌汁

父の日の米櫃に米がある

しのぶ玉吊るしやもめ暮らし

護国神社のやしろに日の丸

すてたふるさとの新茶が香る

ひとり暮らしの塵すこし棄てる

メモ用紙の鶴を折る

女の愚痴が煙草くさい

牛魂碑へ馬魂碑へ花ふぶき

蕨の灰汁ぬいてまつりごとを憂う

曇りの花見の酒飲まずにいる

検尿コップの蛇の目にそそぐ

飲むな食うなと主治医の言いつけ

通院一〇年目の諸葛菜が咲く

祭り提灯に街が色づく

秘在寺の山に緋寒桜ほころぶ

蕗味噌あてに焼酎の白湯割り

お酒欲しくなる〆鯖の八重作り

僧の読経のさなかにまどろむ

漁港のしらす丼がつがつと食う

どんど焼きの橙が湯気噴く

満願の達磨みひらいて燃える

どんどの焔に四手ちぎれ飛ぶ

軍手の穴から親指のぞいている

ニャティティ弾いて叩いてアニャンゴが歌う(アニャンゴはヴォーカリスト向山恵理子さん)

花巻の林檎いただいて賢治の話し

試し切りの大根は甘酢に漬ける

弔いに帰るふるさとの夜道が遠い

黒玉子食いそびれた箱根の土砂降り

釜飯三杯目のおこげをよそう

寒空の蜘蛛の巣になんの蓄えもない

かむなびの椎の実談義が弾む

井月の墓石つるりと摩る(井月の墓は伊那市美篶(みすず)末広にある

とろろ汁擂る擂粉木も半年ぶり

西瓜の皮漬け焼酎も注いであり

火祭り過ぎた南部町に人影なし

大雨続きの痩せた鮎を焼く

おそがけの油蝉湯ぶねで聴く

軒の隠しカメラに燕の巣作り

久しぶりの鯛で骨湯すする

水遣りの妻が百合の花粉つけてきた

しぼんだ花の苦瓜できている

父の拳固の五〇年目の痛み

サンバの踊り子口開けて観る

酒のはずみのよいとまけ唄う

男やもめの声の要らない暮らし

昼飯どきのあせもが痒い

居酒屋の隅っこに弱い俺がいる

金谷宿へ渡る大井川笹にごり

貧乏ゆすりして冷酒を待つ

煮えた飛龍頭が妻の味になる

土手の燕麦そよ風に鳴る

草笛鳴らせずくちびる渇く

竹の子湯がく糠が泡立つ

妻が病んでぺんぺん草の花咲かす

北に合わせて町の地図を読む

痛いようと泣く老人の歯が無い

五勺の米研いで独りの飯を炊く

雨降る夜は背筋伸ばして眠る

濡れた朝刊はがしながら読む

過疎の村の日の丸がわびしい

たった一軒だけ紀元節の旗ひるがえる

米櫃空っぽだと妻の声が沈む

妻の旧姓裁縫箱に残る

焼き鳥の串がレンジで熱い

錆びた庖丁が伸し餅へし切る

眠れない妻の付き添いは眠い

糠味噌かき混ぜて今日一日を仕舞う

外はみぞれか冬眠したくなる

雨の日の出面いたわる

コップ酒一杯分の愚痴聴いてやる

煮込み饂飩の湯気抱えこむ

屋根の向こうに運動会の日の丸揚る

還暦の妻は蟹可愛がる

ほめことばと引きかえの白瓜漬ける

世話好きの妻で沢蟹を飼う

濡れて戻って夜爪を切る

旅の土砂降りを湯ぶねで聴く

達磨寺の案内板営業中です

またたび咲く峠身延へ越える

働かずに喰う爪の先が白い

胡瓜刻む音が機嫌よい

鴉の目当ての枇杷が色づく

母の日のさびしい妻に釜飯おごる

色の無い夢の母が泣く

園児にぎやかに藷の苗を挿す

雨の祭りの香具師しょげている

屋根歩く鴉の足音が弾む

桜吹雪がもとで近所の諍い

被告と呼ばれて筍えぐい

棄て大根がしなびて咲いている

鼻唄の妻が蓬揚げている

はるみという名の蜜柑が甘い

後生車の音が乾いている

ふきのとうは妻にゆだねる

あぶれた鳶が雨をぼやいている

恋しない男の末を案じる

知らぬ女から喪中の報せ

寒椿むざむざと散る

句友の墓標へ迷わずに着く

鉄瓶の音にまどろむ

ごきぶり仕留めた妻を誉めちぎる

酢蛸削ぎ切って歳改まる

開いた甘鯛が金の針を吐く

別れのコーヒーの砂糖譲り合う

悔やみの酒は善人面をして飲む

こうろぎ鳴いて闇が震える

することもなくて柘榴の実をもぐ

急ぐ夜道にいたどりの花が白い

大井川渡る汽笛は谺で聴く

娑婆が恋しいと無心の手紙届く

新牛蒡にふるさとの土が匂う

野菜直売所の兜虫売り切れている

喧嘩した夜の背中丸めて眠る

胡瓜噛む夫婦の音が重なっている

心経三遍犬を弔う

末期の犬の首輪を外す

水無月の蕗を煮る

ふるさとは遠い目をして語る

花と咲くこともなく老いぼれてゆく

どくだみの陰干し花の色失せ

吊り橋の向うも茶畑である

寝そびれた枕の蕎麦殻を減らす

犬に隠れて銅鑼焼を食う

焦がした目刺の頭食い残す

骨休めの雨音頼りない

マンホール這い出て富士を仰ぐ

春着の婆の腰伸びている

写真に撮った土筆飯いただく

お神酒少し足して甘酒沸かす

雛飾る妻はハミング

ひとりの鍋の豆腐踊りだす

明日の楽しみ焼酎残す

犬がいない寂しい米を研ぐ

朝湯の鏡の髭をさする

草刈った手のおにぎり青臭い

飯場の雨だれに囲まれている

大の男の骨が軽い

雲に追われてふるさと歩く

葉桜は寝転んで聴く

鳩頷いて離職を決める

鼻唄が春めく

犬の散歩のほろ酔い

蓬揚げて酒ひさしぶり

夜の雪が耳鳴りとなる

金に無縁の掌が温かい

他国を歩いた古靴捨てる

土の匂いの握手を交わす

満州の話じっくり聞いてやる

凩の橋を渡る

地を這って葛の花咲く

ふるさとは月にそなえるへそ餅

梨の甘さを顎から滴らす

すか引いた籤を丸める

海の匂いのひぐらしを聴く

少し蝕まれた赤い月だ

鳴くだけ鳴いた熊蝉仰向く

若者ら消えて西瓜の種が散らばる

豚しゃぶのレタスむさぼる

犬の尾が花散らしている

花火は音ばかりの酒盛り

毛虫はびこって葉ざくら

祭り女が外股歩き

引き潮の藻場の波黒い

汐の忘れた海星を戻す

さかずきのさけがこころのみずばかり

菜の花の風にむせる

芽吹きの楡の空が深い

湧水恵む丹沢を仰ぐ

溜池の杭に鳥一羽ずつ

福豆を噛む歯のうろ

今着いた町の水を味わう

鴉なぜ啼く父ははの墓どころ

頭ばかりの鮪が瞠る

なじみのさかずきひるざけすすむ

その日暮らしの冬空仰ぐ

すすきかるかやわたしも吹かれる

白い脚が急ぐしぐれの踏み切り

ふるさとは往きも還りも茶の花

上の空で聞く紅葉のたより

粗大ごみの破鏡が光る

害獣だからと紅葉鍋煮る

瓦一枚へ載せた送り火頼りない

マングローブの炭で秋刀魚焼く

つくづくいい世のつくつくぼうし

その日暮らしの爪を切る

苔が隠した墓の名をなぞる

柘榴実らせて朝鮮の人が住む

青々と稗は抜き棄てられる

こおろぎの貌つくづく見て放つ

炭焼き小屋で遊ぶ自分史のはじまり

鳴きつくした蝉が後ずさり

瓦一枚へ載せて送り火

忍び返しに昼顔からむ

青田の鷺が首から歩きだす

蚤も虱も出て尻取りあそび

蛸ぶつ宛がわれて父の日である

梅雨空の向うに逢いたい人がいる

春写した花が苺になっている

朝餉の大根に鬆がある

ふるさとに柏なければ朴葉に包む

ぶるっとふるえて花冷えのいばり

辛し和えの菜の花咲いている

天気崩れだした朝の花便り

花びらまみれの合羽をはたく

ぼた餅頬張って親不孝者です

蓋の開いた石棺に春の陽射し

叩かれた釘の頭光っている

鶏の糞ほとびて春の雨

古釘鳴かせて鶏小屋壊す

雪雲垂れる嶺は国ざかい

酢蛸噛み切って一つ歳をとる

肩をすぼめて枇杷の花仰ぐ

凧買うて師走の街を出る

稜線の青空がなだらか

追分の訛りが酒臭い

しぐれの大根が首をのばす

じじばば集う家の医者要らず咲く

焼け跡の貧しい火事である

表札に憶えある雨の御器屋町

奥浜名に潮満ちて鯊が釣れだす

町の空半分が鰯雲

茗荷よく漬かって悔み酒

夕菅の花と潮騒きいている

舟釘沈む糠床のなすび漬

守宮棲みついた盆栽の歳月

沖徳利へすすきなでしこ

潮風に浜木綿の花がほつれる

目高もらった火鉢へ水を張る

代田に月宿す

夾竹桃の長い夏が始まる

鴉と競うて枇杷むさぼる

纜を解く浮き桟橋で酔う

逢いに来た道の莎莪の花

故ありまして『周防一夜会』は平成17年2月2日退会しました。

吹いて啜る味噌汁みぞおちに温か

父母すでに亡く寒夜の爪切る

焚火の輪を解いて無口に戻る

長く伸びた私の影がスコップ使っている

ふるさとがほのかに匂うとろろ汁

風説と枯葉渦巻く公園の吹き溜まり

土方泣かせた雨に植えたばかりの葱起き上がる

造るために壊す瓦礫の中に光るものが在る

でで虫這い出した秋の雨がやわらか

野良猫も仲間に入れて空き地の昼めし

けもの達は夏毛脱ぎ捨て日々老いる

泣き言は云わぬのっけから泣いて生まれたこの世だ

金木犀の味がする朝霧を吸い込む

雨上りの月と顔を並べる水溜り

秋風にうらなり瓢箪ぶらりぶうらり

お国訛の自慢が汗臭い

法師蝉鳴き了えた空に松ぼっくり

寂しさはかぼそき払暁のかなかな

居所の無いふるさとは蝉しぐれ

蝉ころがる鳴きくたびれて眠るごと

こころが風邪ひいて秋風に咳き込む

目高飼う優しい人は先に逝く(馬銭奴追悼句)

蝉の声 頭蓋を溢れる

こころよい昼寝の己の鼾に覚めて嘲う

炎天を来てふるさとの水に潤う

熊蝉煽る炎暑の道白く

嘘吹きこまれた紙風船高々宙に弾む

耳底に残る夢の山路のほととぎす

青田の水えくぼ蝌蚪連隊屯す

髪切虫は鳴かず歯軋りするばかり

ふるさとは水やわらかく朝の粉薬嚥み下す

毛虫転生 白蛾となる夜のしじま

空缶蹴り上げた夕焼けの隅っこ

鬼やんまの空侵し力いっぱい杭打つ

合歓の葉閉じてゐる薄暮の道拾う

梔子の花いつくしみ他人を誹らず

茅花流し揺らす薊の花にはなむぐり

夢の中の海峡渡る蝶あまた

旅の日の雨脚速し山帽子

十薬の花白い白い夜のあいさつ

たんぽぽ絮になり一つの宇宙創る

卯の花の御飯蛇苺のお菜ままごとの客になる

黄金の花房蔽い棕櫚の葉さやかに鳴る

樟若葉 神話のむかし遠からず

つくづくと負けず嫌いの辞書めくる

ゴム風船山車ゆき過ぎた空高く

ふるさとはまつりばやしのみちがぬかるみ

こころやすらげばさかずきのさけもたいらか

さすろうて来たここにも空がある「たちかわの空掲載句」

陽溜りの磐石に坐し飯食う

あぶれて惨めな酒に出くわす

豆腐屋去る風に喇叭の音あずけ

水糸の愚直が好きで石積む

焚いてもてなされる流木白骨のごとし

時雨さけて軒下の情け蒙る

近未来知らず浅蜊が舌を出す

堰切って流れる水に歓喜あり

青空の元気もらって今日がはじまる

生きる楽しみ少し余して今日を仕舞う

みよし沖向け廃船いつも海を恋う

流れ行く雲のかたちがわたしのこころ

蕗味噌ほろ苦く悔恨の酒を過す

伸びる気迫の豌豆に花紅い

旅立つこころのたんぽぽ絮になる

すてばちなこころつなぎとめたふるさとのしがらみ

花屑あとかたもなく消えた雨もまたよし

桑の実青くして追憶も稚し

山一つ越えて同じ夏雲と逢う

玉葱とけた肉ジャガの混沌を楽しむ

棄てたふるさとのほほづき赤い

汗しとど杭百本の先尖らす

豆腐あわあわふるさとの水の味

雷雨くやしい軒下の昼めし

断ち切れぬしがらみの墓洗う

青年の梨を噛むとき潔し

金目鯛瞠る眼に憂愁あり

掌にずっしり人の情けの新米光る

青すだち旅の顔して滴らす

夢路辿るふるさとは茶の花

渋柿や兄弟夙に相和さず

掘抜き井戸の水温かく芹洗う

錦飾れぬふるさと横目に通る

朝の息かけて熾す火種尊し

炭焼くけむり薄く谷の風匂う

重い泥靴の紐解いて稼ぎ終る

枯れ茅さわぐ風の道を失う

紅梅の蕊 青空を広くする

鼻欠けて風に微笑む石ぼとけ

剥げ落ちた蔵の土壁に冬陽染み込む

瞠る眼に哀愁のある鯛を買う

叩くあてない鉄鎚の柄をすげる

てくてく歩いてきた凸凹道を顧る

諸葛菜愛でる三界流転のつれづれ

独活わらび五風十雨のめぐみいただく

運がよい日の道具磨いて仕舞う

少し鬆の入った人生に酒が沁みこむ

 

自由律俳句の自由なるがゆえの難しさに直面しています。そして有季定型も捨てがたいというのが本音です。

 

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